
2026/08/06
GENIACは、経済産業省とNEDOが立ち上げた、国内における生成AIの開発力強化および社会実装の加速を目的とした取り組みです。そしてGENIACコミュニティにおいてはユーザー企業が生成AIを実務に導入する際の課題やその乗り越え方に対して意見を交換する場も用意しています。
この議論の場は、GENIACコミュニティ内のユーザー企業との議論・投票を経て、”ホンネで語る!AI活用BASE”と名付けられました。BASEとは、ユーザー企業にとっての発信基地・秘密基地を表現しています。
本記事では、”ホンネで語る!AI活用BASE”の業界別会について、どういった議論がなされ、どういった知見を得られたのかを説明します。そして記事の後半には、当日ご参加いただいたアズビル株式会社の佐藤様、寺山様、楽天グループ株式会社の平手様、中外製薬株式会社の石部様の4名よりお伺いした、自社での取り組みや、議論会に参加して得られた学びについても掲載いたします。
source:業界別深掘議論会 当日投影資料
なお、過去開催の”ホンネで語る!AI活用BASE”の課題別会の振り返りはこちらよりご確認いただけます→GENIACで見えた生成AI導入の共通課題と成功事例導出に向けたヒント (METI/経済産業省)
「ホンネで語る!AI活用BASE」の目的と当日実施したプログラムの概要
「ホンネで語る!AI活用BASE」は、生成AI活用に対し抱える課題・それに対する打ち手を他社と共有し合い、自社へ活かせる学び・気付きを持ち帰っていただくことを目的として、2026年2月10日に2回目の議論会を開催しました。
当日は、GENIACコミュニティのなかでこれまで蓄積されてきた知見や議論を土台に、参加者同士がより具体的で実践的な議論を行えるよう、事務局からグローバルの最新事例の共有を行いました。その後、参加者がテーブルごとに自己紹介とディスカッションを行い、最後に議論全体のラップアップを実施しました。
当日のアジェンダ
1.グローバルの最新事例共有
2.テーブルごとに自己紹介・ディスカッション
3.議論のラップアップ
参加頂いたユーザー企業は以下の4つの業界グループに分かれて議論を実施しました。
- 製造(重工業):鉄鋼系、機械系等
- 製造(製品生産):食品系、アパレル系等
- IT・通信:ソフトウェア系、通信インフラ系等
- 金融・不動産・電力:金融、不動産、電力等
今回、冒頭でグローバルの先進事例を共有した背景には、生成AI活用を通じた価値創出の進展度において、日本企業がなお発展途上にあるという問題意識があります。AI利活用を通じた価値創出は、①AI検討フェーズ、②AI導入フェーズ、③AI拡大フェーズ、④AI駆動フェーズの4段階に整理できます。このうち、特に③AI拡大フェーズ、④AI駆動フェーズは、ユーザー企業が目指すべき「AIリーダー」の姿といえます。
一方で、価値創出フェーズに関するスコアを見ると、日本平均は世界全体の平均を下回っており、AIリーダーにはまだ及んでいません。そこで今回は、グローバルの先進企業がどのように価値創出を進めているのかを共有し、参加者が自社の現在地を見つめ直しながら、次のステップに進むためのヒントを得られる場としました。
※権利の都合上、一部情報を抜粋して掲載しています。当日の参加者には詳細をご共有しています。
こうした背景を踏まえ、今回は各業界のグローバル先進企業による取り組みを深掘りして調査し、ポイントを整理したうえでご紹介しました。
グローバル先進事例から見えた生成AI活用促進のヒント
今回、グローバルの先進事例をもとに業界別で議論を行っていただきましたが、業界特有の課題や打ち手が多く挙がったというよりも、むしろ業界を越えて共通する論点が数多く見られました。他業界の先進事例が自社への示唆となる場面も多く、グローバル先進事例の取り組みには、業界の区分にとらわれず、横断的に学べる知見が多くあることがうかがえる議論となりました。また、グローバル先進企業の実際の取り組みを踏まえて議論を行ったことで、打ち手議論はネクストアクションを見据えた具体的な検討へと発展しました。以下では、当日の議論のなかでも各グループで多く見受けられた論点に焦点を当て、AI利活用における課題と、そこから得られた示唆をご紹介します。
1.ROI・モニタリング
2.人材・組織
3.インフラ・データ基盤
4.セキュリティ・リスク管理
-1.ROI・モニタリング-
課題として多く挙がったのは、経営層の理解や投資判断が十分に進まないこと、また効果の定量化が難しく、生成AI活用の成果を可視化しにくいことでした。特に、新たな価値創出をどのようにROIとして評価するかについては、多くの企業が共通して悩みを抱えていることがうかがえました。
こうした課題に対しては、生成AIに関する知見を持つ人材を経営層に近い位置に置き、継続的に議論できる体制を整えることが重要です。加えて、自社の目的に応じた評価指標を設計し、定期的にモニタリングする仕組みを持つことが、次の投資判断や全社展開につながる重要なポイントとして挙げられました。
-2.人材・組織(CoE)-
人材・組織の観点では、全社最適の視点や共通目標が不足し、組織として進むべき方向性が定まりにくいことが課題として挙がりました。また、現場で生成AI活用を進めるためのインセンティブ設計が不十分で、取り組みが限定されてしまうという声も多く聞かれました。
打ち手としては、まず全社として目指す姿を具体化し、その実現に向けてCoEへ一定の権限を持たせることが有効です。さらに、人事評価にAI活用を組み込み、現場の推進役となる人材を明確に位置づけることで、組織全体で取り組みを前に進める体制づくりが求められます。
*CoE(センター・オブ・エクセレンス)・・・組織横断的な取り組みを進めるために、優秀な人材やノウハウを1つの拠点に集約して組織化すること
-3.インフラ・データ基盤-
インフラ・データ基盤に関しては、そもそもAIで何を実現したいのかというゴールが曖昧で、要件定義が進みにくいことが課題として挙がりました。また、データ収集を主導する役割が不明確であることや、収集したデータが十分に構造化されておらず、AIで活用しやすい状態になっていないことも障壁となっていました。
これに対しては、まずユースケースを可視化し、どのデータを優先的に整備すべきかを明確にすることが重要です。そのうえで、AI活用に適した「AI Ready」なデータへ段階的に整備を進める必要があります。さらに、社内のデータ活用に関する相談や知見が集まるHub人材を置くことも、基盤整備を前に進めるうえで有効な示唆として共有されました。
-4.セキュリティ・リスク管理-
セキュリティ・リスク管理では、インシデント発生時の対応方針や要件が明確になっておらず、生成AI活用の拡大に対して不安を抱える企業が多く見られました。また、リスクを未然に防ぐための教育、運用体制、組織横断での判断基準もまだ十分に整っていないという声が挙がりました。
そのため、生成AIに関するセキュリティ知見を持つ専門人材を配置し、全社的なガバナンス設計や予防策を進めることが重要です。加えて、社内データの整理、アクセス権限の設計、利用ルールの明確化を通じて、安全に活用できる環境を整備していく必要があります。
生成AI活用はどこまで進んだのか
-「ホンネで語る!AI活用BASE」テーブルリーダーが語る実践のリアル-
今回、「ホンネで語る!AI活用BASE」に製造(重工業)グループにてテーブルリーダーとして参加してくださったアズビル株式会社の佐藤様(写真左)、寺山様(写真右)に、生成AI活用に関する自社の実践や、他社との議論を通じて見えた示唆をお伺いしました。
Q.アズビル株式会社では、お二人はどのような立場で生成AIの活用推進に関わっているのでしょうか?
佐藤様)私は、IT領域のなかで新しい技術の実証や実験を担当しており、生成AIにもその一環として関わっています。期間としては2023年4月頃からで、まもなく3年になります。もともとAIの専門研究者という立場ではありませんが、新しい技術や不確実性の高いテーマに触れながら、実証を重ねていく役割を担っています。
寺山様)私も同じ部署に所属していますが、もともとは業務システム部門の経験もあり、会社全体のデジタル推進という観点から関わってきました。生成AIについては、新しい技術を社内にどう根づかせ、どう利活用を広げていくかという推進役として、コミュニケーションを大切にしながら進めています。2023年7月頃から本格的に関わり始めました。
Q.生成AIの取り組みに関わるようになった背景を教えてください。
佐藤様)もともと新しい技術全般に関心があり、その延長線上で生成AIにも取り組むようになりました。特に今は、変化が大きく先が読みづらい時代だからこそ、不確実なものに向き合いながら実証を重ねることが大事だと考えています。そうした観点から、生成AIも重要なテーマの一つとして捉えています。
寺山様)技術を発掘して環境を整えることは得意でも、それを全社に広げていく部分には課題があると感じていました。せっかくの技術を一部にとどめるのではなく、より多くの人に届けたいと思い、自ら手を挙げて取り組みに加わりました。新しい技術の導入では、経営層とのコミュニケーションや社内での浸透が壁になることも多いため、そうした橋渡しの役割も重要だと感じています。
Q.アズビル株式会社の生成AI活用の特徴や強みはどこにあるのでしょうか?
佐藤様)結果的に良かったと感じているのは、生成AIを最初から禁止するのではなく、ガイドラインを整備しながら活用を進めたことです。製造業のなかでは比較的早い段階から社内展開を進められていたのではないかと思います。
寺山様)現場からのボトムアップの動きに加えて、トップの意思決定も早かったことが大きかったと思います。新しい技術を導入しないと乗り遅れるという認識が経営側にもあり、ボトムとトップの両方から進められたことが、導入を後押ししたのではないでしょうか。
Q.実際に、社内ではどのように生成AIが活用されているのでしょうか?
寺山様)まずは、誰でも使える生成AI環境を整備し、社員全体が使える状態をつくることから始めました。活用例としては、アイデア出しや要約、調査業務などが多く、特に情報収集や下調べの効率化には大きな効果がありました。営業活動の事前準備や、会議中の調べものにも役立っています。
佐藤様)アズビルでは2023年夏頃には海外拠点も含めて展開を始めており、現在ではグローバルで広く使われています。社員数約9,000人に対して、社内チャットボット等の利用トランザクションは1日あたり3万5,000件程度にのぼっており、かなり日常業務に浸透しています。法務部門も含めて幅広い部門で使われており、生成AIが特別なものではなく、日常的な業務ツールの一つになりつつあると感じています。
Q.「ホンネで語る!AI活用BASE」に参加して、どのような学びがありましたか?
寺山様)テーブルリーダーとしては、参加者の皆さんにできるだけ多く話してもらえるよう意識していました。実際、似た立場や課題を持つ企業が集まっていたこともあり、率直な議論ができたのが印象的でした。特に、生成AI活用を進めるうえではコミュニティ設計が重要だと改めて感じ、他社の取り組みは非常に参考になりました。
佐藤様)私自身にとっても非常に学びの多い場でした。業界特有の悩みというよりは、むしろ多くの企業に共通する一般的な課題が多いと感じました。そのなかで、各社がどう進めているのかをオープンに話せたのは大きかったですし、自分たちにとっても“お土産”になるような気づきがたくさんありました。
Q.特に参考になった他社事例や印象に残った論点はありましたか?
寺山様)特に印象に残ったのは、コミュニティづくりや体制設計に関する話です。AI活用BASE参加企業の取り組みや、BCGが紹介してくださった海外企業の事例を通じて、社内でどのように生成AI活用を広げていくか、その設計の重要性を改めて実感しました。調査内容そのものも非常に参考になり、持ち帰れる示唆が多かったです。
また、議論を通じて、新しい技術が入ってきた以上、既存の業務や役割の「再定義」が必要になるという認識も共有されました。そうした課題感を複数の企業で確認できたことで、自社としても次の一歩を踏み出しやすくなったと感じています。
Q.GENIACのイベントに参加したことは、社内での今後の取り組みにどうつながりそうですか?
佐藤様)他社も同じような課題を抱えていることが分かっただけでも、大きな収穫でした。自社だけが悩んでいるわけではなく、共通する論点に向き合っているのだと確認できたことは、今後の推進にとっても前向きな材料になったと思います。
寺山様)日本を代表するような企業や、生成AI活用が進んでいる企業と率直に議論できたことは、とても大きかったです。こうした場でヒントを得られると、社内でも一歩踏み出しやすくなりますし、今後の具体的な活用方法を考えるうえでも後押しになると感じています。
続いて、「ホンネで語る!AI活用BASE」にIT・通信グループにてテーブルリーダーとして参加してくださった楽天グループ株式会社の平手様に、生成AI活用に関する自社の実践や、他社との議論を通じて見えた示唆をお伺いしました。
Q.楽天グループ株式会社では、平手様はどのような立場で生成AIに関わっているのでしょうか?
平手様)今回の議論会にはユーザー企業の立場で参加しましたが、楽天グループのなかでの私の立ち位置は、どちらかというと開発企業側に近いものです。現在は、GENIAC第3期でも採択いただいている、ロングコンテキストを扱える大規模言語モデルの研究開発プロジェクトに関わっており、海外拠点とも連携しながら推進しています。
また、単にモデルを開発するだけでなく、それを社内でどう活用してもらうか、どうプロモーションしていくかという観点も含めて取り組んでいます。
Q.生成AIに取り組むようになった背景を教えてください。
平手様)もともとの研究バックグラウンドはデータマイニングで、大規模データから知識を発見するようなテーマに長く携わってきました。楽天グループに入社したのも、豊富なデータを活用できる環境に魅力を感じたからです。
その後、生成AIの登場によって、世の中全体が「生成AIをどう事業改善につなげるか」という方向に大きく動き始めました。そうした流れのなかで、研究開発の重点も生成AIに移っていき、現在はモデル開発や関連する研究開発を担っています。
Q.楽天グループ株式会社の生成AI活用の特徴や強みはどこにあるのでしょうか?
平手様)大きな強みは、豊富なデータを持っていることと、ユーザーがすぐそばにいることだと思います。楽天グループには4,560万人規模の月間アクティブユーザーがおり、サービスを通じてユーザーの反応やフィードバックを得やすい環境があります。そのため、生成AIモデルを活用した新しい機能を開発する際にも、ユーザーのフィードバックを得ながら継続的に改善していける点が強みです。
Q.実際に、楽天グループではどのように生成AIが活用されているのでしょうか?
平手様)まず開発の観点では、これまで複数の生成AIモデルをリリースしてきました。楽天AI 7Bや2.0、2.0 mini、3.0などを公開しており、現在はロングコンテキスト対応モデルの開発にも取り組んでいます。これらは社内利用にとどまらず、広く外部にも公開することで、日本におけるAI活用推進に貢献していきたいと考えています。
一方で、社内活用としては、全社員向けの生成AI利用基盤である「Rakuten AI for Rakutenians」を提供しています。社員が自由に生成AIを使える環境を整えることで、業務生産性の向上を図るだけでなく、社員が外部生成AIサービスを不用意な利用を抑制することにつながり、ガバナンスの観点からも有効な仕組みとしています。
また、サービスへの実装も進んでおり、楽天モバイルのカスタマーサポートをはじめ、楽天トラベルにおけるチャット形式の予約支援、商品レビューの要約表示など、さまざまなユースケースで生成AI活用を広げています。さらに、取引先や中小規模事業者向けに「Rakuten AI for Business」として基盤を提供する取り組みも進めています。
Q.「ホンネで語る!AI活用BASE」に参加された背景には、どのような思いがあったのでしょうか?
平手様)こうした場はとても重要だと考えています。企業同士が集まって、同じテーマについて率直に話し合う機会は非常に貴重です。研究の世界では学会のような場がありますが、生成AI活用に関して企業横断で議論できる場も、それと同じくらい意義があると感じています。
実際、今回の議論会でも、同業の他社様を含めて同じテーブルで話ができたことは非常に印象的でした。そうしたコミュニティの価値を強く感じているからこそ、できる限り協力したいという思いで参加しました。
Q.当日の議論では、どのようなことが印象に残りましたか?
平手様)当日は、議論を活性化させるために特別な工夫が必要ないほど、最初から非常に議論が盛り上がっていました。むしろ、次の論点に移るために議論を整理する方が難しかったくらいです。
特に印象に残ったのは、ROIに関する議論です。コスト削減効果は比較的示しやすい一方で、新しい価値や利益をどう可視化するかは非常に難しいという声が多く聞かれました。そこに明確な正解はないと感じており、多くの企業が同じ悩みを抱えていることが分かったのは、大きな収穫でした。
Q.他社との議論を通じて、新たに得られた示唆はありましたか?
平手様)ROIに加えて、人材・組織の観点も非常に参考になりました。たとえば、部門長の評価基準にAI推進を組み込むといった話は、複数の企業で共通して見られた取り組みでした。
そのうえで特に印象的だったのは、部門長や一部の推進者だけが頑張るのではなく、一般社員が日常業務のなかでAIを使い、小さな成功事例を積み上げていくことの重要性です。成功事例が一つ生まれると、それが組織のなかで横展開され、活用が一気に広がる可能性があります。
また、フレクト様のように、現場を回って成功事例を丁寧に拾い上げ、テンプレート化しようとしている取り組みは、とても地道でありながら本質的で素晴らしいと感じました。こうした積み重ねが、全社的な活用促進に効いてくるのだと思います。
Q.「ホンネで語る!AI活用BASE」への参加を通じて、今後の社内の取り組みにどうつながりそうですか?
平手様)まず、他社も同じような悩みを抱えていると分かったこと自体が大きな収穫でした。自社だけが難しさを感じているわけではなく、共通の壁があるのだと分かるだけでも、前向きに捉えやすくなります。
また、当日の発表内容も非常によく整理されていて参考になりましたし、議論を通じて「ここを乗り越えられれば前に進める」という感覚も持つことができました。なかでも、生成AI活用といえども地道な活動の積み重ねが重要であるという点は、社内に持ち帰って今後の取り組みに生かしていきたいと考えています。
最後に、「ホンネで語る!AI活用BASE」に製造(製品生産)グループにてテーブルリーダーとして参加してくださった中外製薬株式会社の石部様に、自社での取り組みや、議論会に参加して得られた学びについてお話を伺いました。
Q.中外製薬株式会社では、石部様はどのような立場で生成AIの推進に関わっているのでしょうか?
石部様)私はDX部門の戦略グループに所属しており、全社的なAI推進をリードする立場で取り組んでいます。2024年からはAIのCoEもリードしており、現在まで2年強にわたってAI推進に関わってきました。
さらに、昨年12月にはAI戦略が正式に経営会議で承認され、CEOのもとで中外製薬の経営戦略の一つとして位置づけられるようになりました。2030年に向けた経営計画のなかでもAIが重要テーマの一つとして組み込まれており、その推進を担っています。
Q.生成AIの推進に関わるようになった背景を教えてください。
石部様)もともとAIの専門家やエンジニアだったわけではありません。社外のスタートアップへの出向から戻ってきたタイミングで、ちょうどAI推進を担う役割にアサインされたのが始まりです。
その意味では、必ずしも技術バックグラウンドありきではなく、事業や経営の文脈のなかでAIをどう位置づけ、どう進めていくかを担う役割として関わるようになりました。
Q.中外製薬株式会社の生成AI活用の特徴や強みはどこにあるのでしょうか?
石部様)特徴としては、製薬業界のなかでもかなり先行して取り組めていることだと思います。先進企業の事例と比べても、大きく見劣りしないところまで来ているという認識があります。
人材、組織、セキュリティ、インフラといった基盤面も比較的まんべんなく整備が進んでおり、製造業や非IT企業という立場を踏まえると、かなり早いペースで進められているのではないかと感じています。
その背景には、これまでのDX推進の積み重ねがあります。コロナ禍の頃からDX組織を立ち上げ、社外発信も含めて継続的に取り組んできたことで、社内外に「中外製薬はDXが進んでいる企業」という認識が醸成されました。その流れが、生成AIへの投資や意思決定のモチベーションにもつながっていると思います。
加えて、本業の業績が堅調であることも大きな要因です。AIに本気で取り組むには、相応の投資と人材確保が必要になりますが、そのための経営資源を振り向けられる環境があることは大きいと思います。実際、DX組織には社外から多様な人材が集まっており、それがさらに推進力につながっています。
Q.実際に、社内ではどのように生成AIが活用されているのでしょうか?
石部様)2024年は、研究から営業まで全社的にユースケースを募集し、約900件のアイデアが集まりました。そこから共通性や波及効果を踏まえて20〜30件程度を選定し、主にRAGをベースとしたユースケースを進めてきました。
その後は、より業務プロセスに踏み込んだ活用へと進化しています。たとえば研究領域では、膨大な論文を扱う業務に対して、著作権処理済みのデータベースを活用し、論文要約アプリケーションを構築しました。
また、製造領域では、薬のレシピ作成に関連する膨大なExcel作業を生成AIで支援し、従来外注していた数千万円規模のコスト削減につながった事例も出ています。
現在はさらに一段進み、個人利用の浸透、業務プロセス変革、そして経営インパクトを狙う大型プロジェクトの3本柱で推進しています。個人利用の観点では「全社員がAIを使うのが当たり前」の状態を目指し、業務プロセスの観点ではAI前提のBPRを進めています。さらに、研究開発や臨床領域を中心に、経営インパクトの大きいムーンショット型プロジェクトも動き始めています。
Q.「ホンネで語る!AI活用BASE」に参加して、どのような点に価値を感じましたか?
石部様)私がGENIACに継続的に参加している一番の理由は、自社が今どこまで進んでいて、どこが遅れているのかを見極めるためです。海外の先進事例も含めて、自社の現在地を客観的に確認できることに大きな価値を感じています。
議論会で得られるのは、単なる情報ではなく、「自分たちには何が足りないのか」「次にどこを強化すべきか」という具体的な示唆です。持ち帰れる“お土産”があるという点が、この場の大きな魅力だと思っています。
Q.当日の議論を通じて、特に印象に残ったことはありましたか?
石部様)今回の議論会では、海外の先進事例や同業種の企業の取り組みを踏まえながら、自社の位置づけをかなり具体的に捉えることができました。
特に良かったのは、製造(製品生産)という近い業界で切っていただいたことです。同じカテゴリーの企業の事例だからこそ、自分事として捉えやすく、「この領域なら自社でもここまで行けるかもしれない」と具体的にイメージできました。
また、議論のフレームワークと事前インプットが非常によく噛み合っていて、単なる情報提供にとどまらず、「では自社は何を持ち帰るべきか」という整理までしやすかった点も印象に残っています。
Q.議論会で得た示唆は、社内でどのように生かしていきたいと考えていますか?
石部様)すでにいくつか、具体的に持ち帰って活用し始めています。
一つは、経営会議のなかにAI視点をより深く組み込んでいくことです。現時点ではAI専門の経営メンバーや専用の意思決定会議体はありませんが、次の中期経営計画や組織設計のなかで、その必要性を提言していこうと考えています。
また、部門長の評価項目にAI推進を組み込むことも検討を始めています。現在は頑張っている個人がきちんと評価される仕組みづくりを進めていますが、今後はマネジメント層にもその視点を入れていく必要があると感じました。
さらに、海外事例でカスタマーサービス領域の成果が目立っていたことから、これまで研究開発寄りだったポートフォリオに対し、より短期で成果が見えやすい領域にも目を向けていきたいと考えています。
Q.今回のような業界別の議論には、どのような意義を感じましたか?
石部様)やはり業界別の方が、参加者同士で話しやすいと感じました。前回のように業界横断だと、進み方や課題の前提が大きく異なり、共通項を見つけにくい場面もあります。
一方で、今回のように近い業界で集まると、悩みや論点も共有しやすく、より具体的な議論がしやすいと感じました。参加者にとっても、学びやすく、持ち帰りやすい形式だったのではないかと思います。
Q.今後、GENIACの取り組みに期待することはありますか?
石部様)短期的には、今回のような先進事例のインプットを今後もぜひ続けてほしいと思っています。自社の現在地を知り、次の一手を考えるうえで、非常に価値の高い情報だからです。
そのうえで、今後はもう一歩踏み込んで、テーマごとにさらに深く議論できる場があるとよいと感じています。たとえばKPI、人材、ユースケースなどの切り口ごとに深掘りし、参加者同士で「では次にどう動くか」まで議論できるようになると、より実践につながる場になるのではないでしょうか。
今回の議論会で得られたモメンタムを生かしながら、継続的に知見を蓄積していける場になることを期待しています。